昨年秋、美智子上皇后様が「皇后」として最後の文書コメントを発表されました。その内容をニュースで知り、思わず夫と顔を見合わせて「うわぁ―、うれしいね!」とにっこりしました。
その文書のなかで皇后様は、公務から離れたら何をしたいかについてコメントしています。“これまで手をつけられなかった小説などをじっくりと読みたいこと”と、併せてこう書いていらっしゃいます。
〈また赤坂の広い庭のどこかによい土地を見つけ、マクワウリを作ってみたいと思っています。こちらの御所に移居してすぐ、陛下の御田の近くに1畳にも満たない広さの畠があり、そこにマクワウリが幾つかなっているのを見、大層懐かしく思いました。頂いてもよろしいか陛下に伺うと、大変に真面目なお顔で、これはいけない、神様に差し上げる物だからと仰せで、6月の大祓いの日に用いられることを教えてくださいました。大変な瓜田に踏み入るところでした。それ以来、いつかあの懐かしいマクワウリを自分でも作ってみたいと思っていました。〉
実はこのマクワウリは夫の大好物であることから、姑が生前、家族で食べる分を栽培して、毎年丹波から送ってくれていたもので、私たち家族にも懐かしいものでもありました。
決してメロンのように華やかな香りや糖度は強くありませんが、素朴でやさしい甘さは飽きがこず、瑞々しいマクワウリを食後に頂くと口内がさっぱりとします。
夫は幼い頃からこの味に馴染んでいたようで、忙しい現役時代にこの味を懐かしんでいました。
皆様もご記憶でしょうか。中国の女性ミイラが驚くほどの柔軟性を保った状態で発見され、調べてみると胃袋から「マクワウリ」の種が大量に出てきたそうです。
このことから死亡したのはマクワウリが収穫される夏ごろだと分かったそうな。
今は品種改良が進み、甘い野菜や果実ばかりが目立ちます。子どもの頃に酸っぱい蜜柑を食べ、小さくて真っ赤な甘酸っぱいリンゴを丸かじりしていた私には、特に最近の果物事情はどれも甘さが立つものばかりで、形を変えた同じ種類のような感じで、面白くありません。
糖分を追いかけることは無意味な品種改良を繰り返しているように感じるのは素人だからでしょうか。
果実が持つ自然な香りや甘み、酸味を楽しめば良いのに・・と思っています。この感覚こそが“美智子上皇后の懐かしさ”や“夫の郷愁”であるマクワウリの存在と同じなのでしょう。
シルクロードを旅して、人も文化も宝物も珍品も、そして種々の食べ物も日本にやってきました。
きっとマクワウリもそれらと一緒に大きな荷物にくるまれて、ラクダの背でゆらりゆらり。やがて大海にのまれそうになりながら、辛い船旅をしてきたのだろう・・なんて想像を巡らしながらマクワウリをいただきます。口に含めば“悠久の歴史”を味わっているかのように感じちゃう私は、大げさでしょうか?
また、そのマクワウリを神に捧げる供物として皇室で大切に栽培していることを、初めて知りました。
大陸からの使者様、どこのどなたか存じませぬが、マクワウリを伝えてくださった貴方様の働きに、遥かな時を超えた現代から私は深く感謝します。
定年退職後、素人の夫は独学して栽培に取り組みました。長期に渡って図書館で何度もレファレンスし、栽培本を何冊も借りてきて、深夜まで頁をめくっていました。それを私は横目で見ながら、いつも「お先に失礼・・・Zzz」でしたが。
やる気スイッチが入ると他は目に入らない夫は、とうとう昨年、見事な黄金色の作品を出荷しました。ちょうどお盆の帰省時と重なることもあり、本当によく売れました。
そんなこんなで、夫は上機嫌。「今年はもう少し多く種を育ててみようかな」と話した矢先の美智子上皇后様のコメント。その“ささやかな夢”が私たちには、とても嬉しく感じられました。その夢が、お叶いになりますように。
さて、今年は昨年に増して良い出来の子たちばかりで、1キロを軽く超えるものも沢山ありました。夫はニンマリです。味も上々!猛暑だったせいか糖度も高く感じられます。ツルの周りに「輪っか」が入ったら食べごろの印です。芳香も漂います。
「理にかなった努力を粛々とすることが成功のカギ」なのですね。“結果は後からついてくる”もの。でも粛々がむずかしいんだけど・・。
「貴方ってば、すごーい!」夫を見直した私でした。ちょっと手前みそかしら?
出荷できない少々キズありのマクワウリを乾燥機でドライにしました。
8ミリの厚さでカットして乾燥機に入れます。砂糖などの甘味は一切加えずに、60度の温風乾燥で約15時間。すると甘さが凝縮した、素朴なドライフルーツが出来ます。
そのままでも、カットしてグラノーラとあわせても、菓子やパンの生地に入れてもなかなかグッド!我が家の楽しみ方です。