「ぼちぼちと、やんねぇよ」
朝夕の風が嬉しく感じられた秋日。道具箱の中から懐かしい姑の文字を見つけた。
それは姑が闘病中の平成25年6月に調剤薬局から処方された薬袋に書かれていた。
薬袋裏には”シンジュ豆 7月20日 蒔く”とあり、白い豆が入っている。
菜園が生きがいだった母は年中切れ目なく栽培してくれた。笑顔も心も素晴らしい人だった。
病が見つかり農作業も禁止になったが、この豆を蒔くつもりだったのだろう。
私は還暦から農業を本格的に始めた。農業中心の生活に転向した矢先、暴風雨と日照りのダブルパンチで茫然自失。自然界は容赦ないものだと実感した。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の一文「ヒドリノトキハ ナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ・・」が頭を占領する。体力も気力もバッテリー切れだ。
その時、「ぼちぼちと、やんねぇよ」やさしい声が耳の奥でリフレインした。姑の笑顔を思い出し、ふぅーっと深呼吸する。
代わりに真珠豆を蒔こうと思う。
発芽は難しいかもしれないが、時空を超えて届いた伝言に感謝している。